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AI推進法とは|企業に求められることと、これからの動き

AI推進法(AI法)とは、AIの研究開発と活用を国として進めるための基本法だ。条文と内閣府の資料で、企業に課される責務、罰則の有無、AI指針と人工知能基本計画の中身、これから変わりうる点を整理した。

2025年、AIの研究開発と活用を正面から扱う法律が日本でできた。正式名称は「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律」で、内閣府は「AI法」と略している。推進のための法律なので、AI推進法とも呼ばれる。

法律ができたと聞くと、届け出や罰則を思い浮かべるかもしれない。ところが条文を読むと、企業に新しい手続きを課す規定はほとんどない。中心にあるのは、国がAIの研究開発と活用を計画的に進めるための仕組みだ。一方で、この法律にもとづいて政府が決めた指針と基本計画は、企業がAIをどう扱うかについてかなり具体的に書いている。

ここでは、AI推進法とは何かを条文と内閣府の資料で確かめ、企業に求められること、罰則の有無、これからの動きを整理する。法的な判断は事業ごとに変わるので、最後は条文と専門家で確かめてほしい。

AI推進法とは

AI推進法は、令和7年法律第53号として制定された。内閣府の概要資料によると、2025年5月28日に成立し、6月4日に公布・一部施行、9月1日に全面施行された。全面施行の日に、人工知能戦略本部の設置に関する規定も動き出している。

第1条は目的を、AI関連技術の研究開発と活用を推進する施策を総合的かつ計画的に進め、国民生活の向上と国民経済の健全な発展に寄与することだと定めている。内閣府はこの法律が必要な理由として、日本のAI開発・活用が遅れていることと、多くの国民がAIのリスクに不安を抱えていることの2つを挙げている。

条文は4つの章と附則からなる。

章条中身
第一章 総則第1条〜第10条目的、定義、基本理念、国・地方公共団体・研究開発機関・活用事業者・国民の責務
第二章 基本的施策第11条〜第17条研究開発の推進、施設の整備と共用、適正性の確保(指針)、人材、教育、調査研究、国際協力
第三章 人工知能基本計画第18条政府が定める基本計画
第四章 人工知能戦略本部第19条〜第28条内閣に置く本部の組織と事務

基本理念の第3条第4項は、AIが不正な目的や不適切な方法で使われると、犯罪への利用、個人情報の漏えい、著作権の侵害などを助長するおそれがあると書き、研究開発と活用の過程の透明性の確保などの施策を講じるよう求めている。推進の法律だが、リスクへの対応も理念に入っている。

人工知能戦略本部は内閣に置かれ、本部長は内閣総理大臣、副本部長は内閣官房長官と人工知能戦略担当大臣、本部員はそれ以外の全ての国務大臣だ。本部は人工知能基本計画の案を作り、AIに関する重要な施策を総合調整する。

企業に求められること

条文の中で企業に直接かかわるのは、第7条の「活用事業者の責務」だ。活用事業者とは、AIを使った製品やサービスを開発・提供しようとする者や、AIを事業活動で活用しようとする者を指す。生成AIを業務で使う会社も、ここに入る。

第7条は活用事業者に2つのことを求めている。1つは、自らAIを積極的に活用して、事業活動の効率化と高度化、新産業の創出に努めること。もう1つは、国と地方公共団体が実施する施策に協力することで、こちらは「協力しなければならない」と書かれている。

罰則はない。条文を最後まで読んでも、違反に対する罰則の規定は置かれていない。届け出や許可の制度もない。ここがEUとの大きな違いで、EU AI法は禁止されるAIの規定に違反した場合、3,500万ユーロか全世界の年間売上高の7%の高い方を制裁金の上限としている。

では、企業は何もしなくてよいのか。私の見方では、そうではない。法律が国に求めている施策のうち、企業の実務に影響するものが3つある。

条国がすること企業への影響
第13条国際的な規範の趣旨に即した指針の整備AI指針が決まり、活用事業者が取り組む事項が示された
第16条権利利益の侵害が生じた事案の分析、活用事業者などへの指導、助言、情報の提供問題が起きたとき、国が事案を調べ、助言や情報提供をする根拠になる
第18条人工知能基本計画の策定政府の重点と、これから見直す制度の方向が示される

第16条の指導や助言には罰則がつかない。それでも、事案を分析して対策を検討する仕組みが法律に書かれたことの意味は小さくない、と私は考える。自社のAIで権利侵害が起きたとき、説明を求められる場面は増えるはずだ。

AI指針が活用事業者に求める5つのこと

第13条にもとづく「人工知能関連技術の研究開発及び活用の適正性確保に関する指針」(AI指針)は、2025年12月19日に人工知能戦略本部で決定された。法律が抽象的な分、企業が読むべきなのはこちらだ。

AI指針は、適正性について一義的な定義や絶対的な水準を定めないとしている。各主体が自分のAIの特性や用途、立場を踏まえて自主的に取り組む、という考え方だ。そのうえで、考慮すべき要素として、人間中心、公平性、安全性、透明性、アカウンタビリティ、セキュリティ、プライバシー・個人情報、公正競争、AIリテラシー、イノベーションを挙げ、基本方針の1つめにリスクベースでのアプローチを置いている。

活用事業者が特に取り組む事項として挙げているのは次の5つだ。右の列は、社内で点検するときに見るところを私が足したものだ。

指針の事項指針が求めること(要約)社内で見るところ
AIガバナンスによる俯瞰的な適正性の確保ライフサイクル全体でリスクを特定・評価・対処する組織的なプロセス(経営層が関与したモニタリング、情報の開示、教育・研修など)を作り、回し、改善する誰がAIの利用を承認し、誰が見直すか。研修の記録
透明性の確保学習データの出所と生成物について合理的な範囲で説明できるようにする。AIを提供するときは仕組み・限界・禁止事項などを利用者に伝える利用者向けの説明、出力の根拠の表示
十分な安全性の確保AIを悪用したサイバー攻撃や詐欺のリスクを評価して対策する。ハルシネーションや不適切な出力を抑える入出力の検査、評価の仕組み
事業継続性の確保AIを使ったシステムに障害が起きたときの事業継続計画を、あらかじめ作るAIが止まったときの代わりの手順
データの重要性を踏まえたステークホルダーへの配慮データの保有者と、データの適正な活用のあり方について継続的に話し合う学習や検索に使うデータの権利の確認

取り組みの水準は、主体の規模や立場、AIがもたらすリスクに応じて決めればよい、と指針は書いている。全部を同じ重さでやる必要はない。注記では、AIガバナンスはゼロから作るものに限らず、既存のITシステムに適用しているガバナンスの仕組みを使うことも有用だとしている。また、活用事業者には海外事業者も含むと明記している。

私の見方では、この5つのうち、生成AIを社内で使うだけの会社が最初に手をつけるのは、1つめのガバナンスと3つめの安全性だ。透明性とデータの配慮は、AIを組み込んだ製品やサービスを社外に出す会社で重くなる。社内の点検には、総務省と経済産業省のAI事業者ガイドラインのチェックリストがそのまま使える。AI指針も、国際規格の例としてISO/IEC 42001を挙げている。

人工知能基本計画と、これからの動き

第18条にもとづく人工知能基本計画は、2025年12月23日に初めて閣議決定され、2026年7月14日に第Ⅱ期の計画が閣議決定された。第Ⅱ期の副題は「日本AX、より強く、より豊かに」で、急伸するエージェント型AIへの対応を前面に出している。

第Ⅱ期の計画は、4つの基本的な方針を掲げている。

  1. AI利活用の加速的推進(AIを使う)
  2. AI開発力の戦略的強化(AIを創る)
  3. AIガバナンスの主導(AIの信頼性を高める)
  4. AI社会に向けた継続的変革(AIと協働する)

企業の側から見て押さえておきたいのは、制度が動くことを計画が前提にしている点だ。概要は、AI法を含めた制度等を能動的かつ不断に見直すと書いている。エージェント型AIを前提に、AIを使って権利侵害や損害が起きた場合の責任分界も継続的に検討するとしている。計画そのものも、当面は毎年変更するとしている。

法律の附則第2条にも、国際的な動向や社会経済情勢の変化を踏まえて施行の状況を検討し、必要があれば措置を講じる、という見直しの規定がある。今の法律に罰則がないことは、この先もずっと罰則がないことを意味しない。

私の見方では、企業にとっての実務は次の順で進めればよい。

順番すること使う資料
1社内で使っている、または作っているAIを一覧にする社内の棚卸し
2AIごとに、社内で使うだけか、製品やサービスとして社外に出すかを分ける第7条の活用事業者の定義
3AI指針の5つの事項を、AIごとの使い方に当てはめるAI指針
4足りないところを、チェックリストで具体的な対策に落とすAI事業者ガイドライン
5年に1回、基本計画と指針の改定を確かめて、社内の規程を見直す内閣府のAI戦略のページ

5の見直しを決めておくのが大事だ。計画は当面毎年変わり、指針も改定されうる。AIの使い方も1年で変わる。社内の規程を作って終わりにすると、1年後には実態と合わなくなる。全体の考え方はAIガバナンスとはにまとめた。

この記事は、法律と政府の資料の中身を整理したもので、個別の事業が何をすべきかの法的な判断ではない。判断が要るときは、e-Gov法令検索の条文と内閣府の資料を確かめたうえで、専門家に相談してほしい。

AIを業務に組み込む側で、こうした指針への対応を実装に落とす職種についてはFDEとは?Forward Deployed Engineerの意味と仕事内容で説明している。社内で使われているAIを洗い出し、リスクと設定を点検する診断は、AI利用セキュリティ診断で紹介している。

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