「AIエンジニア」は、求人票でいちばんよく見る肩書の1つになった。ただ、同じ「AIエンジニア」でも、モデルを学習させる人を指す求人と、既にあるAIを製品に組み込む人を指す求人が混ざっている。肩書だけでは中身が分からない。
ここでは、AIエンジニアという呼び方がどこから来たのか、似た職種とどう違うのか、生成AI以後の仕事内容と必要なスキルを整理する。最後に、顧客の現場に入ってAIを実装するFDE(Forward Deployed Engineer)との違いを比べる。FDEという職種の詳しい定義はFDEとは?Forward Deployed Engineerの意味と仕事内容にまとめてある。
AIエンジニアとは
AIエンジニアとは、AIの技術を使って、実際に動く製品や業務の仕組みを作るエンジニアだ。私の見方では、今の日本では2つの意味が重なって使われている。
- 広い意味。機械学習のモデルを作る人も、AIを製品に組み込む人も含めた、AIに関わるエンジニア全般
- 狭い意味。生成AIのモデルをAPIなどで使い、製品や業務の仕組みに組み込むソフトウェアエンジニア
狭い意味の呼び方を広めたのは、米国の開発者Shawn Wang(swyx)が2023年6月30日に書いた「The Rise of the AI Engineer」だ。彼は、AIのAPIやオープンソースのモデルを製品にするソフトウェアエンジニアが「AIエンジニア」という肩書に収束していくと書き、これが今後10年でもっとも需要の高いエンジニアの仕事になるだろうと予測した。AIの製品を世に出すのに要るのは研究者ではなくエンジニアだ、というのが主張の中心にある。
当時の数字も残っている。同じ文章によると、求人サイトのIndeedでは、機械学習エンジニアの求人がAIエンジニアの求人の10倍あった。swyxは、AIエンジニアの伸びが速いので、この比率は5年で逆転すると予測した。
比率が逆転したかを確かめられる公的な数字は見当たらないが、伸びが速いという見立ては米国の別の調査とも合う。LinkedInが2025年1月に発表した米国の「Jobs on the Rise」では、AIエンジニアが急成長している職種の1位になった。2022年1月から2024年7月までに始まった職の伸びをもとにした順位だ。
似た職種との違い
AIに関わる職種は、何を作り、どこまで責任を持つかで分けると見通しがよくなる。次の表は、私の整理だ。
| 職種 | 主に作るもの | 重心 | 主な成果 |
|---|---|---|---|
| AI研究者 | 新しいモデルや手法 | 論文、新しい性能 | 研究成果 |
| 機械学習エンジニア | 学習させたモデルと、その運用の仕組み | データ、学習、評価、推論の基盤 | 精度の出るモデル |
| データサイエンティスト | 分析と予測のモデル、意思決定の材料 | 統計、分析、業務への示唆 | 判断に使える分析 |
| AIエンジニア(狭い意味) | 既存のモデルを組み込んだアプリや業務の仕組み | API、検索、評価、本番の運用 | 使われる製品 |
| FDE | 顧客の業務に合わせたAIの実装 | 顧客の現場、業務、データ | 顧客のKPIが動くこと |
同じ人が複数の役割を持つこともある。とくに小さな組織では、機械学習エンジニアとAIエンジニアの線ははっきりしない。swyx自身も、AIエンジニアがモデルの微調整に踏み込むこともあれば、機械学習エンジニアがAPIの上で製品を作ることもあると書いている。表は役割の重心を示したもので、人を分類するものではない。
AIエンジニアの仕事内容
狭い意味のAIエンジニアの仕事は、生成AIのモデルを部品として、動く仕組みを作ることだ。私の見方では、仕事は大きく6つに分けられる。
- 課題に合わせたモデルと使い方を選ぶ。どのモデルを、どの設定で、どこまで任せるかを決める
- 指示文と入出力の形を設計する。決まった形で答えさせ、形が合わない答えをはじく
- 社内の情報を渡す仕組みを作る。社内文書やデータベースを検索して、質問と一緒にモデルに渡す(RAG)
- ツールやシステムとつなぐ。AIが社内のシステムを読み書きできるようにし、権限と承認を設計する
- 評価を作る。答えの良し悪しを測る問題と基準を用意し、モデルや指示文を変えるたびに測り直す
- 本番で運用する。費用、応答の速さ、誤りの報告、ログを見て、直し続ける
このうち、機械学習エンジニアの仕事といちばん違うのは5つ目の評価と、4つ目の権限だと私は考えている。モデルを自分で学習させない代わりに、モデルの誤りを測り、誤っても被害が出ない仕組みを作る責任を負う。もっともらしい誤りへの対処はハルシネーション対策に、外部の文書に紛れた指示への対処はプロンプトインジェクションとはに書いた。
AIエンジニアに必要なスキル
必要なスキルは、ソフトウェアエンジニアとしての基礎と、生成AIに特有の技術の2層に分かれる。
| 層 | スキル | 中身 |
|---|---|---|
| 基礎 | WebのAPIとバックエンド | 外部のAPIを呼び、結果を処理し、障害に備える |
| 基礎 | データベースと検索 | 社内のデータを持ち、必要な部分を素早く取り出す |
| 基礎 | テストと本番の運用 | 変更しても壊れないことを確かめ、ログと監視で異常に気づく |
| 生成AI | 指示文と出力の設計 | 答えの形を決め、検証できる出力にする |
| 生成AI | RAGと検索の設計 | 文書の分け方、検索の方法、権限ごとの見せ分け |
| 生成AI | 評価 | 業務の基準で正解を作り、誤答と「わからない」を分けて測る |
| 生成AI | セキュリティ | 外部の文章に紛れた指示、権限の渡しすぎ、情報の持ち出しへの備え |
私の見方では、順番は基礎が先だ。生成AIの技術は変化が速く、半年前のやり方が古くなることもあるが、APIとデータベースとテストと運用の力は変わらずに効く。
AIエンジニアとFDEの違い
FDE(Forward Deployed Engineer)は、AIエンジニアと技術はほぼ重なる。違うのは、どこで、誰のために働くかだ。
FDEの起源は米国のPalantirにある。Palantirの公式ブログは、エンジニアの職種を、多くの顧客に1つの機能を届ける「Dev」と、一つの顧客に多くの機能を届ける「Delta」に分けて説明している。このDeltaがFDEの原型だ。今では、AnthropicもApplied AIチームのエンジニアをFDEという肩書で募集している。Financial Timesは、Indeedのデータをもとに、FDEの求人が2025年1月から9月で800%超増えたと報じた。
| 比べる点 | AIエンジニア | FDE |
|---|---|---|
| 働く場所 | 自社の開発チーム | 顧客の現場(業務の会議や現場の作業に同席する) |
| 作るもの | 自社の製品やシステムのAI機能 | その顧客の業務とデータに合わせたAIの実装 |
| 最初の仕事 | 決まった仕様や課題から作り始める | 顧客と一緒に、何を解くべきかを決めるところから始める |
| 成果の測り方 | 製品の品質、使われ方 | 顧客の業務のKPIが動いたか |
| 求められる力 | 実装の深さ、評価、運用 | 実装に加えて、業務の理解、顧客との合意づくり |
私の見方では、FDEは、AIエンジニアの技術に、顧客の業務に入り込んで課題を決める力を足した職種だ。AIエンジニアとして実装と評価の力をつけた人が、顧客と話して課題を決める側に寄っていくと、FDEに近づく。FDEとSES・SIer・コンサルとの違いはFDEとSESの違いに、FDEになるための準備はFDEになるには?にまとめた。
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